1日目
9月の上海、午後の陽光が窓枠を通して差し込む中、何気ない会話が距離を少し縮めてくれた。蛍蛍がそこの海の話をし、「来月、どこかの週末に」と言った。その時はただの口癖かなと思ったが、時間が経つにつれ、その言葉は心の奥底での願いとなった。10月初め、蛍蛍が天気を気にし始め、まるで静かにこの旅を計画しているようだった。その時、蛍蛍が本当に私に彼女の目に映る美しさを見せたかったのだと知った。 だから私は迷わず深圳行きの航空券を予約した。天気がどうであれ、蛍蛍が私に見せたかった海を見に行くことに決めたのだ。
10月18日未明の深圳、夜の闇は優しく包んでくれた。飛行機が着陸した後、まずホテルに寄って、これから始まる旅に備える。土曜日の朝9時に出発。少ししたハプニングで9時半に蛍蛍の家からの出発となったが、車窓から見える海岸線と市街の風景が次々と流れ、気持ちも景色とともに移りゆく。
最初の目的地は深圳天文台。バスで山を登り、高台から見下ろす海はきらめき、潮風がほんのり湿り気を帯びて漂っていた。私たちは山道をゆっくり歩き、たくさん写真を撮った。すべてが気楽で心地よかった。


その後、高速艇に乗って海を間近に眺めた。潮風を迎え、波が打ち付けるリズムを感じる。

車を充電する間に、昼食は路傍の小さな食堂でとることに。エビの身はぷりぷりで、蒸した魚は淡泊ながらも味わい深く、素朴な料理なのに印象に残った。

午後は象鼻岩へ。そこには透き通った海と、波が丹念に彫り上げたような不思議な形の岩があった。

夕暮れ時、予約しておいた海辺のレストランへ。店内自慢のロブスターのパエリアとバスクチーズケーキを食べていると、遠くの浜辺で花火が上がり始めた。夜の闇と波、光と影が織りなすその瞬間は、そよぐ潮風が似た者同士の魂の息吹を連れて来たかのようだった。

帰路、塩田港へ向かおうとしたが、道を間違え何度も引き返し、友達の家の近くまで来てしまった。せっかくなので友達を誘い、再び塩田を目指すもやはり道に迷い、結局塩田行きは断念。代わりに路傍で熱々の腸粉(ちょうふん)を一緒に食べた。予定外の出来事だったが、温かい思い出となった。

夜、蛍蛍を家まで送り届け、1日目の行程を終える。心の中はこれからの旅への期待でいっぱいだった。
2日目
朝早く鵞公湾(がこうわん)へ向けて出発。途中、まず車の充電。待っている間、海辺で朝食をとることにした。すぐにコーヒーの移動販売車を見つけ、簡易的なキャンプ用チェアに座り、朝風を受けながらシンプルな朝食を味わった。遠くに広がる海と空の境界線、潮の香りとコーヒーの香ばしい香りが混ざった空気。時間がぴったりと優しく流れていくようだった。

昼下がりの陽光が雲間から鵞公湾に降り注ぎ、海面のきらめきが空の明るさを映し出していた。海に面した一角を見つけ、モヒートを注文。潮風がほんのり塩気を含んで頬を撫で、静かで心地よい空気に包まれた。

そこに座って、海と空が一つになる景色を眺めていると、時間の流れがゆったりとしたものに感じられた。この海の水に優しく包まれているようで、青く澄んだ海面には笑顔が映り、ただそばにいるだけで楽しい気分になった。

午後、二人で海へ入った。水は思っていた以上に冷たく気持ちよく、足元では細かい砂が柔らかく、波が肌をそっと打つ。水遊びをしている瞬間、言いようのない爽快さが広がり、空気さえもが安らぎに染まっていくようだった。
夕日が西に沈むにつれ、旅も終わりに近づいた。私は帰路についているけれど、心はまだあの海に、あの潮風の中に残っている。